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  <title type="text">銀雫の囁き</title>
  <subtitle type="html">（株）トミーウォーカーのウェブゲーム『シルバーレイン』をはじめとする、プライベートＳＳ置き場。</subtitle>
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  <updated>2010-01-05T20:37:42+09:00</updated>
  <author><name>椎葉</name></author>
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    <published>2012-01-01T00:00:00+09:00</published> 
    <updated>2012-01-01T00:00:00+09:00</updated> 
    <category term="未選択" label="未選択" />
    <title>はじめに</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p>ここでは、管理者がつれづれに書いた、「銀雨」の登録ＰＣに関するプライベートなＳＳを書き連ねています。<br />
「トミーウォーカー」や「シルバーレイン」を全く御存じない方には、不明な内容ばかりと思われますので、ご覧になる際は、予めその旨御了承ください。</p>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>椎葉</name>
        </author>
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    <published>2010-11-03T19:45:56+09:00</published> 
    <updated>2010-11-03T19:45:56+09:00</updated> 
    <category term="銀雨＝鞆総スルガ" label="銀雨＝鞆総スルガ" />
    <title>迷い森</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p><br />
彼が纏う空気は、あまりにも剣呑で。</p>
<p>故に、同じ匂いを嗅ぎ分ける　或いは異質を感じ取り、過剰反応する者にとっては、そこに居るだけで因縁をつける契機のようなもの。<br />
彼もまた、己に敵意を向けて来る者は、須らく、力で叩き伏せ、制圧して然るべき存在と考えてやまなかった。</p>
<p>そう、疑うことも知らなかった頃のこと。</p>
<p><br />
路地裏に響く怒号と、殴打する鈍い音、がらがらと何かが薙ぎ倒される騒音<br />
それらが断続的に路地裏を騒がせ、やがて静寂が訪れる。</p>
<p>地に這うのは、一見して無頼の輩と思われる男達。<br />
累々と倒れ伏す者らを睥睨するように、しかし幽鬼の朧さを纏わせて立つは、頬に刺青を持つ精悍な体躯の青年。<br />
うめき声を漏らす者、絶え絶えに呪詛を吐く者を、無感動な黄金の瞳が見下ろし。<br />
やがて興味をなくした青年は、くるりと踵を返す。<br />
「てめぇ&hellip;調子に乗ってんじゃねぇぞ&hellip;&hellip;」<br />
背にかけられた挑発に、青年はひたりと歩みを止める。<br />
よろめきながら立ち上がり、更に言葉を紡ごうとした無頼漢は、しかし二の句を次ぐ事は許されなかった。<br />
振り向きざま大きく踏み込み、その勢いのまま繰り出された鋭い青年の蹴り。<br />
避ける暇なく、その身体は木の葉の如く宙を飛び、壁に容赦なく叩きつけられていた故に。</p>
<p>す、と地に足をつけた青年の眼光は、背筋の凍るような殺気を帯びて、次の反抗を許さなかった。</p>
<p>――その心は、今も溟い森を彷徨っている。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>リビングの扉を開けて入ってきた青年の姿に、キッチンに立って食事の下ごしらえをしていた彼女は、おかえりなさい、と言葉を紡ごうとして、驚きに目を瞬いた。<br />
「スルガさん&hellip;！どうしたんですか、血が」<br />
「俺のものではない」<br />
頬や服を汚す、僅かな紅の飛沫を見咎め、かけられた言葉に、素っ気無く応えながらスルガは脱いだ上着を自室に放り投げた。<br />
端整な顔（かんばせ）を曇らせて、絢歌は浴室に向かう同居人を目で追う。</p>
<p><br />
叩きつける飛沫は、鬱屈とした心の泥までは洗い流してくれそうにもなかった。<br />
立ち尽くし、微動だにしないスルガの頭上から降り注ぐシャワーの水が、ただ身体をなぞり、排水溝へと消えていく。</p>
<p>森で過ごしていた頃、山で「彼女」の亡骸と過ごした頃、ただ本能のままに生きていれば良かった。<br />
ただ、襲い来るものを打ちのめす暴風であれば良かった。<br />
しかし、今は違うのだ。何もかも。<br />
何も持たぬ故の強さは、いつしか何も持たぬ事への不安になった。</p>
<p>――俺は、弱くなったのだろうか</p>
<p>力なく伏せられた瞳は、迷いの出口を見つけられないまま。</p>
<p>「&hellip;&hellip;ここに、タオルと着替え、置いておきますね」<br />
ふと、磨りガラス越しの柔らかな声が耳朶に響く。<br />
優しい、絢歌。<br />
今のスルガの、唯一つの寄る辺であるひと。<br />
答えを、誰かに求めるのは愚かであると知っている。それでも、彼女ならば、と。</p>
<p>「絢歌」<br />
ガラス越しに遠ざかる姿に、浴室の引き戸に手をかけ開け放ち、追いすがる。<br />
身体を、髪を伝う雫が、床を濡らすのも構わず。<br />
「絢歌、俺は」<br />
どうすれば、よかったのだろう？<br />
何ができるというのだろう？</p>
<p>この、変わりすぎた世界で。</p>
<p>沢山の問いは、うまく言葉にならず、中途で途切れた。<br />
振り向いた絢歌と、視線が一瞬絡んで。</p>
<p>長い髪を揺らし、背を向けた絢歌。</p>
<p>拒絶されたのかと、スルガは瞳を翳らせた。<br />
愚かな問いと、わかってはいる。答えようなどないではないか。<br />
甘ったれた思考に、嫌気がさす。</p>
<p>「&hellip;&hellip;あの、スルガさん、&hellip;その」<br />
珍しく歯切れ悪く、言い淀む絢歌は今だこちらを見ようとはしないままで。<br />
「&hellip;？」<br />
「えと、&hellip;&hellip;出てくる時は、服、着てください、ね」<br />
「―――！」</p>
<p><br />
「すまん」<br />
「いえ、私は&hellip;大丈夫ですから」<br />
絢歌は、目の前で項垂れる青年にほんのりと頬を染めながらも、いつもの穏やかな笑顔で微笑んだ。<br />
だが、いつもの同居人らしからぬ様子に、ことりと首を傾げる。<br />
スルガの晴れぬ瞳の陰から感じるのは、先刻の失態だけではない何か、思い悩むもの。<br />
彼が、未だこの世界に慣れ馴染んでいないであろうことは、絢歌も察していた。<br />
そしてそれは、目に見えぬ軋轢も含め、過大なストレスとなって不器用な来訪者を苛む棘になり得るのだろうと。<br />
重い空気を祓う春風のように、もう一度絢歌は笑む。<br />
「ご飯にしましょうか、スルガさん。」<br />
今日はハンバーグにしてみたんですよ、と軽やかに台所に足を向ける絢歌。<br />
付け合わせなどは、既に盛り付ければ良いように準備は終えている。後は肉を焼くだけ。<br />
程良くスパイスの効いたハンバーグの焼ける香ばしい香りが部屋に漂えば、思いの外、己が空腹であった事に気付く。<br />
絢歌もまた、この世界に目覚めた時間は然程変わらぬだろうに、現代の料理も見事に作りこなしてみせる。<br />
以前、その事を指摘すれば、彼女は微笑みと共に答えてくれた。<br />
『だって、美味しそうに食べてくれる人がいるのですもの』<br />
目の前に手際良く並べられていく皿には、ふんわりと湯気を上げるデミグラスソースがけのハンバーグ。<br />
形よく刻まれたサラダ、パセリが爽やかに香るコンソメスープに、ライスが添えられ。<br />
律儀にいただきますをしたスルガは、暫し悩みを忘れたように食に没頭した。<br />
食事の匂いを嗅ぎ取りやってきた、勇んでしっぽをぶんぶんと振る白い仔犬にも、玉葱等を混ぜていない分のハンバーグをよそってやる絢歌。<br />
同じように席につけば、もうお代わりをしそうな気配の同居人にくすりと笑みを零す。</p>
<p><br />
食後のお茶を啜りながら、何気なく点けたテレビ番組。<br />
黙して座するスルガは、目に映るばかりで、恐らく内容はまるで頭に入っていないであろう。<br />
絢歌は、ちゃっかりと膝に上がりこんで機嫌良さそうにしっぽを揺らす、白い仔犬を撫でてやっていたが。<br />
「スルガさん」<br />
静かな呼びかけに、金色の瞳が廻らされる。<br />
「一人で、頑張り過ぎないでくださいね。<br />
　すぐに答えの出ないことだって、話せば楽になる事も、あります。<br />
　もっと、誰かを頼っていいんです」<br />
ここはもう、あの昏い森の中ではないから。<br />
一人では、ないから。<br />
「大丈夫ですよ」<br />
そんな風に気を張り詰め、誰かを傷つけ、傷つかなくてもいいのだと。</p>
<p>目を見開いた、スルガの表情は、迷い疲れた旅人が光射す出口を見つけたかのようにも<br />
親の姿を漸く見つける事ができた、幼子のそれのようでもあり<br />
瞬間、泣きそうだと思えてしまったのは、気の所為だったかもしれないけれど。<br />
いつもの、無表情にも見える顔が少し伏せられて、再び上げられた時には、久しぶりの幽かな微笑。<br />
紡がれた感謝の言葉へ、わう！と、まるで事情を解したかのように鳴いてみせる仔犬に、一瞬虚を突かれて、零れる表情は二様。</p>
<p><br />
心のカケラは、ひとつ、ひとつ<br />
暗闇の中で光を放つ。</p>
<p>「ひと」になる事は、弱さではないと。<br />
<br />
歩みはまだ拙くとも<br />
それは大切な、一歩<br />
力だけが全てだった世界から踏み出し得られるものは、決して優しさだけではないとしても。</p>
<p>そうして、無二の心を、土蜘蛛の青年が自覚するのは、まだもう少し先の話。<br />
&nbsp;</p>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>椎葉</name>
        </author>
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    <published>2010-01-14T20:34:42+09:00</published> 
    <updated>2010-01-14T20:34:42+09:00</updated> 
    <category term="銀雨＝姫酉信乃丞" label="銀雨＝姫酉信乃丞" />
    <title>詠苑－eien－　前篇</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<p><br />
しゃり、しゃり</p>
<p>泥だけは落とし、齧る馬鈴薯。<br />
焼いたり煮たりする火種も、この降りしきる雨の中では確保し難いものだ。<br />
他に味をつけるものなど、尚更、ありはしない。</p>
<p>生きる為に</p>
<p>その唯一の命題が、どれだけ重ねた罪を贖うものか</p>
<p>考えるのも無意味</p>
<p>幾たびも枯れかけた命を、それでも醜く繋ぐのも、希望、などという綺麗な言葉ではなく<br />
執念にも似た、「巫女」であることの使命<br />
盲信にも似た、崇めるべきものへの思慕</p>
<p>いつか　会える<br />
そして　繁栄の礎とならん</p>
<p>歴史から　人々の記憶から　　結界という安寧に守られた世界から<br />
忘れられた存在――土蜘蛛<br />
彼らに仕える者として　　私は、忘れていない</p>
<p>ようやく晴れた夜空から降り注ぐ月光に、透ける蜘蛛の糸は<br />
喩えようも無く美しいと思った</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>朽ちかけた板が、申し訳程度に天蓋となる住処に膝をかかえ、空腹を限界まで耐えてようやく、<br />
私は麓の村の畑に降りる。<br />
僅かな糧を得る為に。</p>
<p>決して裕福でない私の家が、ある日燃え尽きて。<br />
生きているのは、私だけになってしまった。<br />
他に頼るべき人もおらず、寒空の下、身一つで放り出されてしまった。<br />
それからは、働くことも教えられない私は、搾取し生きることだけが思いつく手段だった。</p>
<p><br />
畑の端、そっと人参を掘り出す。ひとつ、ふたつ。<br />
大事に、懐にしまって、そこで<br />
夕暮れ刻だった辺りが、急に翳って夜になったかと思ったけれど。<br />
見上げると、居並ぶ影が太陽を隠していた所為だった。<br />
隙間から見えた空は、やっぱり夕焼けだったから。</p>
<p><br />
口腔に滲むものも、鼻腔を満たす臭いも、多分、元は同じだろう。<br />
身体が軋んで、これはとうに四肢もばらばらになってしまっているのではないかと、朧な思考の中で他人事のように考えた。<br />
荒々しく吐きかけられるのは、もう言葉として認識できない、騒音のようだった。</p>
<p>煩い、な</p>
<p>こんな雑音、もう、聞きたくない</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>「―――生きているか」<br />
気配だけが、誰かが自分の傍に膝をついて覗き込んでいることを教えてくれた。<br />
知らない男のひとの、声。<br />
でも、どうしてだろう&hellip;どこかで聞いたことがあるような、懐かしい、その声。<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
口を開こうとしたけれど、ひゅうひゅうと掠れて、私の喉からは何も音は出なかった。<br />
「遅くなって、すまなかった」<br />
何故、謝るの？<br />
ふうわり、抱きかかえてくれたあなたの腕は、こんなにも強くてあたたかいのに。<br />
「共にゆこう。姫様が、お待ちかねだ」</p>
<p>―――あなたの、匂いは　　そう　　　そうなのね　　やっと</p>
<p>もう、ひとりで寒空に心を凍てつかせることもないのだと<br />
どうか、信じさせて。<br />
&nbsp;</p>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>椎葉</name>
        </author>
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    <published>2010-01-14T13:49:57+09:00</published> 
    <updated>2010-01-14T13:49:57+09:00</updated> 
    <category term="銀雨＝姫酉信乃丞" label="銀雨＝姫酉信乃丞" />
    <title>詠苑－eien－　後篇</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<br />
<p>「なまえ？」<br />
「そうだ」<br />
今更だが、互いに名乗りもしていなかったから、と鋏角衆の男は問うた。<br />
聞かれたけど、私に答えられるものはない。<br />
名前など、あっても意味のないものになって久しく、もう&hellip;&hellip;何であったかすら、忘れてしまっていたから。<br />
暫し、男との間に沈黙が落ちる。<br />
「―――信之丞」<br />
「？」<br />
「俺の名前は、姫酉ジンという。名字をお前にやろう。<br />
　お前は、&ldquo;姫酉信之丞&rdquo;と名乗れ。――どうだ？」<br />
名前は、人にとって大事なもの、唯一つの存在であるための、大切な言霊。<br />
だから、と彼――ジンは言った。<br />
「&hellip;&hellip;うん」</p>
<p>同じ名前をくれることが、何だかくすぐったい。<br />
拒む理由はどこにもない。<br />
貴方がそう呼んでくれるなら、きっと素敵なこと。</p>
<p>「おとこの人の名前みたいだけど、いいよ」<br />
「え」<br />
痩せて発育の悪い私だったから、どうやら本気で性別を見誤っていたらしい彼が、あたふたと狼狽し謝る様が可笑しくて、<br />
生まれて初めて、声を上げて笑うことができた。</p>
<p>「ありがとう、ジン」</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>不器用な、その優しさが心地よい。<br />
いつだって、小さな私と歩く速さを合わせてくれるジン。</p>
<p>無骨な手が私に触れる時、壊れ物を扱うように一度躊躇って、それから伝わるあたたかさも<br />
うたたねした身体にかけてくれる、おっきな上着に染みた大地の匂いも<br />
鍛錬をする、厳しいその横顔も<br />
蜘蛛童の背に乗せて見せてくれる景色も</p>
<p>ぜんぶ、私の&ldquo;特別&rdquo;。</p>
<p>ジンがいるから、私のせかいはこんなにも、やさしい。</p>
<p><br />
全てのものには、おわりがくる。<br />
望むと望まざるとに関わらず<br />
幸せを永遠にと願うからこそ、その壊れる「刻」の訪れはあまりにも、儚い。</p>
<p>怒号と　悲鳴と　轟音と　閃光</p>
<p>いつか見た本の「地獄」というのは、こんな景色なのかもしれないと思った。<br />
穏やかだった葛木山の風は、今はまるで飢えた獣の咆哮のように荒く、触れただけで切り裂かれるよう<br />
息を吸っても吸っても、尚苦しい</p>
<p>あちこちに同胞の骸が横たわり、もう通い慣れた筈の屋敷への道程さえ、わからなくなってしまう程の。<br />
ぐらぐらと、眩暈がする</p>
<p>どうして　どうして　こんなことに<br />
誰が壊したの？<br />
誰がこんなことをしたの？<br />
みんな　みんな　燃えてしまう<br />
消えてしまう<br />
私はまた、ひとりぼっちになってしまうの？</p>
<p>いや　そんなのいやだ</p>
<p>ジン<br />
この煉獄のどこかで、きっと貴方はいる筈<br />
会いたい<br />
ジン</p>
<p>草履の鼻緒もいつしか切れて、裸足で駆け出す。<br />
尖った石が足を傷つけても、突き出た枝が皮膚を抉っても<br />
今駆け出す事を止めてしまえば、二度と立ち上がれなくなりそうだったから</p>
<p><br />
――信之丞</p>
<p>声ですら、なかったかもしれない。<br />
けれど、確かに私を「呼んだ」声に、竦んだように足が止まる。<br />
巡らせた視線の先、生命の灯火のとうに絶えた蜘蛛童は、「彼」の。<br />
その傍らで、地に伏せる影を、私が見誤ろう筈がない。<br />
「――ジン！！！」<br />
まろぶように駆け寄り、ジンの側に膝を落とす&hellip;<br />
そこは流れる血も黒く染まり、大地に大きな染みを広げている。<br />
死闘を物語るように、ジンの身体はぼろぼろだったが、止めとなったのは腹部を深く切り裂いた創なのだろう。<br />
咄嗟に、癒しの術を使おうとした私の手は、<br />
震える、しかし驚くほどしっかりした力を込めた大きな無骨な手に触れられ、止められた。<br />
最早、助からぬ　と、憔悴しながらも最期を悟った眼差しが伝えてくる。<br />
それが意味するものを受け入れたくなくて、私は馬鹿みたいに首を振り続けた。<br />
「信之丞」<br />
ひゅうひゅうと、苦しげな息の下でも、私を呼ぶ声は、不思議と周囲の轟音にかき消されることはない。<br />
「聞いて、くれるか」<br />
遺言だ、と。<br />
「俺は、何も後悔していない。<br />
　進んできた道を、信じて護り抜いたものを、間違っていたと思わない。<br />
　それが、俺の誇りで、生きてきた証だ」<br />
遠い記憶に思いを馳せるよう、ジンは瞼を一度、閉じた。<br />
「ここから先は&hellip;信之丞&hellip;どうか――俺たちの屍を苗床に、新しい命を守り、育てて欲しい」</p>
<p>恨み言でもなく<br />
命乞いでもなく<br />
静かな祈りだった<br />
明日も生きる命を祝福し、残される者の幸せと繁栄を願う心だけ、強く、強く。</p>
<p>「うん。」<br />
約束するよ、ジン<br />
ジンの守りたかったものは、私が守り続ける<br />
いつかくる終わりの日まで</p>
<p>だから、ゆっくり休んでね</p>
<p>絡めた小指の感覚は、最期まで優しく</p>
<p>ジンは少しだけ微笑んで<br />
永久に醒めない眠りの向こうへ、旅立った。</p>
<p>&nbsp;</p>
<p>銀誓館学園、という組織に属する能力者達に「保護」されたのは、それから程なくしてだった。<br />
ジンや仲間をたくさん傷つけ、殺したひとたち<br />
けれど、復讐という溟い単語を、不思議と思い浮かべることさえなかったのは、<br />
ジンの言葉があったからだと思う。</p>
<p>何も後悔はしていない<br />
進んできた道を　信じて護り抜いたものを　間違っていたとは思わない<br />
それが俺の誇りで、生きてきた証</p>
<p>お前にとっても、歩んだ道がいつかそうであってくれと<br />
全てを包み込む　そんなあたたかな想いに、今も私は護られている。</p>
<p>死によってすら、断ち切れないものが確かにある<br />
想いは受け継がれ、未来へと続いていくのだから<br />
この誓いを胸に歩むなら、私はどこまでもジンと一緒に生きていけるのだから。</p>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>椎葉</name>
        </author>
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    <published>2010-01-06T22:20:45+09:00</published> 
    <updated>2010-01-06T22:20:45+09:00</updated> 
    <category term="銀雨＝鞆総スルガ" label="銀雨＝鞆総スルガ" />
    <title>雪華奏～浅き夢見し、暁狭間～ １</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<br />
<font size="2">ふわ、ふわ、と。<br />
あたたかい水に包まれ、心地よく呼吸をするような　不可思議なまどろみ。<br />
<br />
泡沫のように、浮かんでは弾けて消えるのは<br />
その中に映る情景は<br />
嗚呼、そうだ<br />
<br />
きっと、俺自身の記憶。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
　　　　　　　　　　　　　　　　　&sect;　狭間　&sect;<br />
<br />
日輪の光届かぬ、深き溟き森の中<br />
そこで生まれたものか、外からやってきたのか、もう覚えてはいない。<br />
骨のように奇怪な枝を伸ばす、歪な樹林。<br />
黒き土と、険しい岩肌に支配された大地。<br />
ここが、その蜘蛛童の揺り籠。世界の、全て。<br />
<br />
<br />
荒れ狂う凶暴な殺気が迫ってきていることを、蜘蛛童は直感で知る。<br />
身を屈めたその上を、異音を響かせて通り過ぎる暴風。<br />
否、其は風に非ず。<br />
鋼鉄の如き体毛に、無数の生命を喰らってきたのであろう、角のように突き出した鋭い牙を備えた、異形。<br />
絶えることのない苦痛に、その身を苛まれ続けるモノ――妖獣。<br />
その濁った視線が、蜘蛛童を捕らえる。<br />
<br />
滅、滅、滅<br />
<br />
伝わりくるは、狂ったような凶気。<br />
常軌を逸した殺気を受ける蜘蛛童の黄金の眼は、だがしかし同じ異形でありながら玲瓏に理性を宿す。<br />
先を喫したのは、蜘蛛童。<br />
撓めた態勢から、木々の幹を渡るように跳躍を繰り返し、妖獣の死角に躍り出る。<br />
強靭な顎が妖獣の頚に喰らいつき、骨を砕く鈍い音と、ケダモノの耳障りな苦痛の絶叫が不協和な音色を奏でた。<br />
致命的な一撃、だが、妖獣もまだ倒れぬ。<br />
暴風の如く身を震わせ、蜘蛛童を振り払う。宙に浮いたその身体に突進し、苛烈な頭突きを叩き込んだ。<br />
それは正に破壊槌の威力。<br />
回避ままならず、蜘蛛童は吹き飛ばされ、樹の幹を幾本も薙ぎ倒しながらようやくその勢いは止まった。<br />
ずる、と地に力なく伏せ八肢を折る蜘蛛童もまた、未だ戦意衰えぬ。<br />
これが最後の一撃とばかりに、互いに肺腑を搾り出すが如き咆哮、昂ぶる獣気。<br />
ざわざわと、恐れ戦くように木の葉がざわめいた。<br />
<br />
瞬。<br />
<br />
束の間、風がその役目を放棄し、音の一切が絶たれたかに思える静寂の後。<br />
地に立つ影は、八足のもの。<br />
牙の化身は、どう、と倒れ、その身を塵と化してこの世から痕跡を無くした。<br />
<br />
繰り返される、彼岸との境を渡る日々。<br />
戦い、と称するには、信念も目的もなく。<br />
襲うものも、襲われるものも、ただそこにいたから。<br />
あまりに日常と成り果てたそれは、ひととき、或いは明日までの生を繋ぐ為の事務的な手順のようにさえ、思えるほどの。<br />
選択や、思考の余地など、ありはしないのだ。この殺戮の大地に。<br />
<br />
<br />
「おおきい、くもさん」<br />
無垢な声が、唐突に空ろの森に響き。<br />
蜘蛛童は些かの驚きを以って、そちらに頭を巡らせた。<br />
妖獣蠢く、生気なき森で、言葉を話す生き物など見たことが無い。<br />
それも、このような小さく弱いものが。<br />
にんげんの、こども。<br />
拙き足どりで、粗末な着物をまとったあまそぎの娘が、こちらに歩み来る。<br />
そろり、そろりと。異形の生物への、恐怖感や警戒心からではない。犬猫へ、近づく人を恐れて逃げぬように気遣うようなそれ。<br />
蜘蛛童は微動だにせず、そんな子供をじっと黄金の複眼で見つめる。<br />
やがて、一匹と一人の距離は、一尺と離れぬ程になった。<br />
「わたい、&ldquo;ちよ&rdquo;。<br />
　はじめまして、おおきいくもさん。<br />
　あのね、わたい、とうちゃとはぐれちゃったの。くもさんも、ひとりなの？」<br />
少し舌足らずな、あどけない声音。<br />
語る言葉を持たぬ蜘蛛童であったが、ちよと名乗った子供の言わんとしている意味は、何となく理解した。<br />
首を傾げ、自分を見上げてくる仕草に和まされたか、ちよは安心したように、あどけない笑みを浮かべ、頬を桜桃のように染めた。<br />
「とうちゃみつけるまで、いっしょにいてくれる？」<br />
ふたりなら、淋しくはないから。<br />
そう言って胴に身を寄せてくる幼子。<br />
<br />
それが、蜘蛛童が最初の感情を覚えた、奇しくも哀しき邂逅であった。</font>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>椎葉</name>
        </author>
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    <id>b32865.game-ss.com://entry/3</id>
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    <published>2010-01-06T22:19:56+09:00</published> 
    <updated>2010-01-06T22:19:56+09:00</updated> 
    <category term="銀雨＝鞆総スルガ" label="銀雨＝鞆総スルガ" />
    <title>雪華奏～浅き夢見し、暁狭間～　２</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<font size="2">　　　　　　　　　&sect;　蜘蛛と童　&sect;<br />
<br />
ちよの身振り手振りを交えた話によれば、生活に使う木を幾許か得る為に山に父親とやってきたが、その途中ではぐれてしまったという事情のようであるらしかった。<br />
森から殆ど外に出ることもない蜘蛛童であったが、森の周囲にある人里であれば、匂いなどを頼りに探し出すことは難しくはない。<br />
ひとしきり話し終えたちよの腹が、徐にぐうと鳴った。<br />
腹部を押さえるちよの姿に、住処とする穴倉から這い出た蜘蛛童は、ややあって木の実のようなものを咥えて戻ってきた。<br />
差し出されたそれを、ちよは口にするが、堅く渋いその実では、子供の口に合わず、とてもそのままでは食に耐えられるものではない。<br />
「だいじょうぶよ、くもさん。おなかすくのは、なれてるの」<br />
蜘蛛童の厚意を無にすまいと、健気に微笑んでみせるちよ。<br />
実りの少ないこの森では、人間が生きていく糧を得るのは困難を極める。<br />
やはり、長くは置いておけない。<br />
蜘蛛童は、ちよが眠りについた事を確認すると、その夜のうちに村を探しに久方ぶりの月下に黒き躰を鈍く光らせた。<br />
<br />
<br />
蜘蛛童の足で、半刻の距離に、その村は見つかった。<br />
陽が中天にさしかかった頃、蜘蛛童はちよを伴って彼女の集落近くの丘に現われた。<br />
下界を見下ろせば、寂れた集落が臨める。<br />
痩せた土地にいくばくかの作物を作り、点在する家屋は、「家」というよりはあばら屋とでも称するのが正しい趣である。<br />
強い風でも吹けば、容易に倒壊してしまいそうな、木と藁で覆われた棲家と大地の狭間で、何人かの人間が力なく働いているのが見て取れる。<br />
蜘蛛童は、背に乗せた幼子にちらりと視線をやる。<br />
「うん、ここがわたいのむらだよ！」<br />
ちよは、生まれ育った村を前に、興奮気味に頬を紅潮させる。<br />
蜘蛛童は、幼子を振り落とさぬように、器用にその八本の足で斜面を下り始めた。<br />
「ありがとうね、くもさん！くもさんのおかげね！」<br />
自分を乗せる背を撫でてやりながら、にこにことちよはケレンなく笑う。<br />
「とーちゃん、かーちゃん、げんきにしてるかな？<br />
　ちよ、かえったら、いっぱいおてつだいするんだ！」<br />
<br />
<br />
蜘蛛童は、村人の目に触れぬよう茂みに姿を潜め、ちよだけを村に向かわせた。<br />
すぐに帰らなかったのは、ちよが間違いなく両親と会えるのを見届けてからでも遅くはないと考えたからである。<br />
奇妙な人間の子供。<br />
異形を畏れることがないのは、その恐ろしさを知らぬ無知故だろうが、あの溟い森が<br />
全てであった蜘蛛童にとって、興味深い対象に違いなかった。<br />
<br />
だが、人間と蜘蛛は相容れぬもの。<br />
ひとは、ひとのせかいにもどるのがよい。<br />
それはまごうことなき、事実であると、蜘蛛童は知っていたから。<br />
<br />
「とうちゃーーん！」<br />
父の姿を見つけたか、まろぶように走っていくちよ。<br />
父親と思しき人物もまた、声に気づいて作業の手を止め、顔を上げ&hellip;&hellip;<br />
しかしその表情は、行方不明であった我が子を迎い入れる親のそれでは、なかった。<br />
「&hellip;&hellip;なんで戻ったがよ」<br />
決して大きくはないが、その冷たい響きにちよの足は止まる。<br />
「と、う、ちゃ」<br />
「ここにおまんのおるくはない」<br />
たたきつけられた言葉の意味がわからず、ちよは大きな瞳を見開いて立ち尽くす。<br />
「おまんがおると、食い扶持が増えるだけやき。<br />
　それやき置き去りにしたがやに&hellip;&hellip;どうやって帰ってきたがか&hellip;！」<br />
<br />
<br />
ちよと、取り巻く周囲の様子が尋常でないことは、一見して蜘蛛童も察した。<br />
子は、生まれや個体差はあれど、庇護する存在の元では成長するまで大切に<br />
育まれるもの。<br />
土蜘蛛とて、そうしたコミュニティを形成する。<br />
本能としてそれを知る蜘蛛童であるから、まだ幼い個体である少女は、親元に帰るのは当然と思われた。<br />
しかし、あの様子は違う。<br />
子を忌み、追い払おうとする不穏な気配に、蜘蛛童は徐に潜んでいた茂みから這い出した。<br />
<br />
「ちよは、いちゃいけないの&hellip;？」<br />
「そう言うろうが！はよういね！」<br />
地を蹴った足が泥を跳ね上げ、ちよに飛礫と降りかかる。<br />
ぎいいぃっ！！<br />
咄嗟にちよと父親の前に滑り込んだ蜘蛛童が、鋭い威嚇の声を上げる。<br />
突然に現われた人外の生物を前に、ちよの父親や周囲の村人が悲鳴を上げ、後ずさった。<br />
「や、やっぱり化け物に憑かれとったか！」<br />
「ちがう、ちがうよとうちゃん！このこは&hellip;」<br />
「あなた！」<br />
あばら屋の一つから飛び出し、ちよの父親と並んだ女性は、言わずもがな、ちよの母親であろう。<br />
彼女もまた、蜘蛛童とちよを見るや、恐怖と嫌悪の色濃い眼差しを向けるのだった。<br />
「こんなものまでつれてきて&hellip;&hellip;今まで育ててやった恩も忘れたのかいっ<br />
　何て子だろう！」<br />
「出て行け！」<br />
「化け物め！」<br />
恐慌状態に陥った村人らは、鍬や鋤を振り回し、棒切れや石を投げにかかる。<br />
蜘蛛童にとっては、何らダメージになるものでもないが、この明確な敵対行為に本能が戦闘態勢を取らせ、背中に真紅の紋様を浮かび上がらせた。<br />
最早、目の前の生き物どもが、ちよの両親であろうと関係はない。<br />
きりきりと攻撃音を響かせる蜘蛛童。<br />
数を頼みにいきり立つ村人らが、殺せ、殺せと口々に呪詛を吐く。<br />
その前に、立ち塞がったのは、ちよ。<br />
「やめて！みんなやめて！このこはわるくないもん！ちよをたすけてくれたのよ！<br />
　ひどいことしないでぇっ」<br />
喉が張り裂けんばかりのちよの抗議は、しかしながら激昂した村人には逆効果であった。<br />
やはり化け物憑きだ、村に災いを持ち込むなと、口々にちよを罵り。<br />
飛来した飛礫がちよの目を打ち、片手を潰した。<br />
悲鳴を上げて倒れこんだちよの姿に、戦気を収めた蜘蛛童は、ちよを咥えて背に放り上げると、再び森を目指す。<br />
<br />
嗚呼、陽の当たる場所に、幸せがあるわけではないのだ。<br />
ちよには太陽がよく似合うのに、どうしてそこで過すことができないのだろう？<br />
蜘蛛童は不思議で仕方がなかった。<br />
<br />
村から十分に離れ、追っ手がかからぬのを確かめてから、蜘蛛童は歩みを止めた。<br />
背中の上のちよからは、血の匂いが絶えぬ。<br />
きぃ、と小さく鳴いて、様子を窺う。<br />
「ごめんね&hellip;ごめんねくもさん&hellip;&hellip;ちよのせいで&hellip;こわかったね、ごめんなさい」<br />
傷つけられた身体は、どんなにか痛むだろう。<br />
信じていたものに否定され、裏切られたこころは、それ以上に辛いであろう。<br />
けれども、ちよはただ、蜘蛛童の背を撫で、泣きながら詫びた。<br />
<br />
ちよは。<br />
口減らしの為に、捨てられたのだ。<br />
もう、この子に帰る家はなく、たった一人で生きてゆかねばならない<br />
――これ以上の生を望むならば。<br />
<br />
蜘蛛童は、思う。<br />
ちよが共に生きるのなら、自分ができることをしよう。<br />
人が食べられるものは、人がする事を見ていれば察しはつくし、妖獣からもきっと護ってやれるだろう。<br />
<br />
ちよは、我と、一緒にいればよい。<br />
そうすれば、だいじょうぶ。<br />
<br />
いつか、ちよを受け入れてくれる同じ人間が現われるまで&hellip;&hellip;</font>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>椎葉</name>
        </author>
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    <published>2010-01-06T22:18:31+09:00</published> 
    <updated>2010-01-06T22:18:31+09:00</updated> 
    <category term="銀雨＝鞆総スルガ" label="銀雨＝鞆総スルガ" />
    <title>雪華奏～浅き夢見し、暁狭間～　３</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<font size="2">　　　　　　&sect;　旅路の果て　&sect;<br />
<br />
黒い森では、ちよが生きてゆけぬ。<br />
故に、蜘蛛童はちよと共に山々を渡り歩き、あても無く流離う道を選んだ。<br />
それでも十分な栄養をちよに与えることは難しかったろうし、人目を避けて悪路を往く道行や、野宿は幼い子には心身共に負担であったろう。<br />
けれど、山野を染める紅景色や、清流に泳ぐ魚たち、色鮮やかに咲く野の華を見ては、屈託無く笑うちよ。<br />
<br />
彼女を見つめているのは、いつしか蜘蛛童にとっても安らぎになっていた。<br />
<br />
銀色の月が、きらきらと地上を照らす夜。<br />
いつものように風雨を避けて潜り込んだ茂みの中、傍らにてすやすやと寝息をたてていた筈のちよが、不意に魘されたようにもがり、蜘蛛童は頭を回らせた。<br />
「&hellip;&hellip;とうちゃ&hellip;&hellip;&hellip;かあ、ちゃ」<br />
小さな、ほんの小さなうわごと。<br />
ほろりと、零れる雫。<br />
唾棄し、自らを追い出した者であっても、ちよにとって両親は恋う存在に違いないのだ。<br />
所詮異形である己は、束の間の慰めでしかない&hellip;<br />
人のそれとは明らかに異なる、蜘蛛の無骨な八肢。<br />
鋭い爪さえ具え、今魘されるちよを安らかな夢へと誘うべく、撫でてやることもできない。<br />
背に深紅の紋を背負う程に成長した蜘蛛童は、いつしか土蜘蛛として人の身を得ることができるという。<br />
そうなれたなら、ちよを引き取ってくれる人間を探して、人里に下りるのもよいかもしれない。<br />
そうなれたなら、ちよはきっと、太陽の下で暮らせる筈だから――<br />
<br />
<br />
異形は異形を引き合わせる故か、人里を離れた場所を選んで旅する故か、二人の行く手には度々妖獣の類が現われ。<br />
その度に蜘蛛童は、ちよを護り、戦った。<br />
己一匹の身であれば、傷も何も気にする必要はなかったが、自分が戦いの中で地に伏す事あれば、それ即ち、ちよが庇護を失い&hellip;再び独りになってしまう事であるから。<br />
こんな戦いを、蜘蛛童は知らなかった。<br />
それでも、それが使命であるというように、迎え撃つ敵を屠り続けた。<br />
ただ、直向に。<br />
<br />
季節が、山に紅を齎す頃。<br />
蜘蛛童は、己が身に異変を感じ取っていた。<br />
酷く、身体が重い。<br />
それと共に、抗いがたい程の眠気のようなものが、頭を鈍くする。<br />
今日何度目か、うずくまってしまった蜘蛛童に、ちよは心配そうに寄り添う。<br />
「くもさん&hellip;だいじょうぶ？おなかがいたいの？」<br />
蜘蛛童の背をさする、痩せた手の感触。<br />
きゅう、と小さく鳴いて、蜘蛛童は再び八肢に力を込める。<br />
&hellip;しかし、最早自らの身体を支えることもままならぬ。<br />
「&hellip;&hellip;まっててね、ちよ、たべるものとってくる！<br />
　たくさんたべて、ゆっくりやすめば、きっとよくなるよ！」<br />
蜘蛛童が止める暇もあらばこそ、ちよは駆け出した。<br />
急速に閉ざされていく意識の中で、ちよの細い後姿が遠ざかっていく。<br />
<br />
―――ちよ。<br />
<br />
伸ばした腕の違和感に、蜘蛛童は目を見開いた。<br />
さらさらと、天から白く冷たい欠片が降り注いでくる。<br />
冷たき真白は、蜘蛛童の頬に舞い落ち&hellip;その体温に触れて解け消えた。<br />
空へ延べた己の、八肢であったものは、いつしか褐色の、人間のそれと違わぬものとなっており。<br />
蜘蛛童であったものは、不可思議な感覚に黄金の目を瞬いた。<br />
起き上がろうと力を込めれば、ぎしぎしと身体が軋む。<br />
意識を失っていたのは、どれくらいの間であったろう。<br />
紅葉を身に纏わんとしていた木々は、既にその衣を落とし、寒々しい姿を曝していた。<br />
ゆるり、蜘蛛童は自分の手に視線を落とす。<br />
（&hellip;&hellip;ひと、と、おなじ&hellip;）<br />
確かめるように、指を握ったり、開いたりする。<br />
唐突に理解する。あの身体の不調は、この前触れであったのだと。――時を迎え、<br />
我が身は土蜘蛛の一属と化したのだと。<br />
同時に、大切な記憶も呼び覚まされる。<br />
己が眠っている間、ちよはどうしていたか。<br />
俄かに焦燥し、見渡すも少女の姿はない。<br />
（&hellip;&hellip;ちよ&hellip;！）<br />
人の姿を得ても二足歩行に慣れぬ少年は、ぎこちない動きで立ち上がり、時にまろび、時に四つ這いで、辺りに少女の姿を求める。<br />
<br />
<br />
&hellip;&hellip;&hellip;。<br />
&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;。<br />
<br />
幻聴であったかもしれぬ。<br />
或いはただの、風の音であったかもしれぬ。<br />
<br />
だが、少女の声を聞いたような気がして、蜘蛛童、否、土蜘蛛の少年はひとつの洞穴に辿り着いた。<br />
<br />
すっかり変わってしまった姿を見て、ちよは自分が蜘蛛童であったものとはわからないかもしれない。<br />
顔を合わせた時、何と言おう？<br />
人間になれたのだから&hellip;そうだ、これで人里に降り、ちよをひとの生活に戻してやれる。<br />
飢えも、寂しさもない、あたたかな陽だまりの中で。<br />
<br />
<br />
僅か数歩で奥まで辿り着く、暗く小さな洞。<br />
一歩を踏み出した土蜘蛛の少年の前に、頬を染めた小さな少女が走り出て、声を弾ませて微笑んだ。あの、いつもの太陽のような笑顔で。<br />
（くもさん！げんきになったのね！もう、だいじょうぶね！）<br />
「―――」<br />
少女に延べた手は、だがしかし虚しく空を掴んだ。<br />
そこには、何も、　　　誰もいない。<br />
<br />
否。<br />
<br />
岩壁を背に、膝を立てて座るは、小さな白骨<br />
その横に、もう枯葉となってしまった大ぶりの葉があり、水気を失い干からびた果実が数個、まるで大事に奉るように乗せられて<br />
<br />
<br />
<br />
しろい、ましろいその骸に、土蜘蛛の少年は指でそっと慈しむように触れた<br />
<br />
幻のように重なる、面影<br />
<br />
ちよ。<br />
<br />
<br />
黄金色の双眸から、零れた最初のひとしずく<br />
それからはもう、堰を切って、褐色の頬を伝う雫は地を濡らす<br />
胸を締め付ける苦しさの意味も、とめどなく溢るる&hellip;それが涙という名であることも知らず、少年はただ、少女の骸を前に、声も無く哭き続けた。</font>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>椎葉</name>
        </author>
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    <published>2010-01-06T22:17:48+09:00</published> 
    <updated>2010-01-06T22:17:48+09:00</updated> 
    <category term="銀雨＝鞆総スルガ" label="銀雨＝鞆総スルガ" />
    <title>雪華奏～浅き夢見し、暁狭間～　４</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<br />
<font size="2">　　　　　　　　　　　　　&sect;　やくそく　&sect;<br />
<br />
―――星辰は巡る。<br />
<br />
その山野に、化生が現われると、人の噂に上る。<br />
<br />
人跡未踏の大地に、豊富な木々と鉱脈があることを知った者の一団が、開拓の為その地を訪れるや、彼らはほうほうの態で逃げ帰ってきた。<br />
曰く、異形の腕を持つ鬼に襲われた、と。<br />
腕に覚えのある者が、度々に退治を試みるも、彼らもまた返り討ちに遭うのみ。<br />
そこに資源の宝がありつつも、悪辣な鬼の領土であるばかりに、人々は手を拱くしかない。<br />
人に徒為す化生滅すべしと願いを受け、希代の退魔士と呼ばれし男がその地を踏んだのは、如何な星の定めであったか。<br />
<br />
荒い呼吸の狭間に、ぱたぱたと地に滴るは深紅の花弁。<br />
最早抗うだけの力はとうに尽きたと見え、鎧武者の如き異形の腕もまた、威力を失い残骸の如き有様。<br />
しかし、その瞳は、月輪の光を湛える黄金の眼差しは、翳ひとつなく、こちらを睨めつけてくるのだ。<br />
例え生殺与奪を握られようと、退かぬ、媚びぬと、強く、強く。<br />
数ある妖を、人の世の安寧の為と調伏してきた彼であったが、ついぞこのような眼を見たことがなかった。<br />
だからだろうか、ふと興味にかられて問いかけたのだ。<br />
「君、どうしてここに拘るのかな？」<br />
「&hellip;&hellip;&hellip;&hellip;」<br />
答える義理はないとばかりに、人外の若者は口を硬く閉ざしたまま。<br />
「&ldquo;視せて&rdquo;くれないか。&hellip;君の大義」<br />
満身創痍の妖を前に、予想していた応えと、鉄扇をひらり、舞わせた神主服の男。<br />
「――様、化生の前で、危険です&hellip;！」<br />
供の術士が鋭い声音で窘めるのも構わず、小さく呪を唱え、印を結ぶ。<br />
余裕を見せたその態度に舌打ちし、土蜘蛛の青年は口腔に溜まった血の塊を唾棄し、霞む視界を気力で正す。<br />
退魔士の男は、暫し瞑目していたが、ややあって静かに瞼を上げた。<br />
その神秘なる力は、過去・現在・未来を見通すとも言われた、高名な術者である。<br />
術を以って、彼は確かに「視た」のであろう。<br />
「――うん&hellip;&hellip;」<br />
何かに納得したように、独りごちたあと。<br />
「わかった。そゆ事ならいいや。&hellip;&hellip;村の連中には、私が適当に説明しとくから。<br />
　山下りる準備して、天碍」<br />
「はあっ？！」<br />
まだ標的を調伏しきってもいないというのに、すっかり帰り支度を始めている師に、従者が素っ頓狂な声を上げたのも無理はない。<br />
「わかりません！まったくもって意味わかりません！説明してくださいぃっ！！」<br />
ヒステリックな喚きに、面倒くさそうに顔を顰めた神主服の男は、従者ではなく、土蜘蛛の若者に視線を向けた。<br />
若者を調伏しようとした時の、物理的圧力すら伴うのではと思われるほどの威圧感はそこになく、穏やかな黒の瞳は慈愛すら滲ませる。<br />
「――護っているのだね。&ldquo;彼女&rdquo;の菩提を。<br />
　だから、山を切り開き、安らかな眠りを侵す人間を追い払っていた&hellip;。<br />
　&hellip;挫けぬ意志には、理由がある。<br />
　それを知らずに、君を傷つけたことは大変申し訳なく思う。すまなかった」<br />
詫びる退魔士を、土蜘蛛の若者は苛烈な眼差しで撥ねつけてみせる。<br />
「貴様に憐れまれる筋合いはない。<br />
　滅する気があるならば、今ここで決めろ。そうでなければ、いつか貴様を殺す」<br />
立場を弁えぬ傲慢とも思える口上だが、退魔士はそれすらも好ましいとでも言うように、向けられる殺意を柳の如く受け流し、微笑んだ。<br />
「この土地は君のものではない。けれども、後からやってきたのは我々の方だ。<br />
　武者押しで墓荒らしなど、後世に笑われたくないからね。<br />
　私に君を調伏する気は、もう無いよ」<br />
ふ、と伏せられる眼。<br />
「とはいえ、このまま何もせずに帰ったのでは、私もけじめがつかぬ。<br />
　&hellip;&hellip;君には、少し眠ってもらうとしようか」<br />
退魔士の男の最後の言葉は、土蜘蛛の背後から囁かれたもの。<br />
縮地の如き技。<br />
身を強張らせた次の瞬間、急速に意識を闇に曳かれる感覚。<br />
「く&hellip;&hellip;！」<br />
唇を血が流れるほどに噛み、どうにか堪えようとするが、膝は地につき、身体はどう、と地に倒れ伏す。<br />
「君の護りたかったものは、誰にも傷つけさせないよ。<br />
　――誇り高き土蜘蛛よ、新たな世で君の幸せを掴みなさい&hellip;&hellip;<br />
　彼女が最後に、そう願ったように」<br />
黄金色の瞳が、見開かれる。<br />
退魔士の言葉を、安い慰めの為の嘘であると切り捨てることは容易だった。<br />
しかし、そうできなかったのは&hellip;知らず、救いを求める甘やかな幻想故だっただろうか。<br />
「―――ち、よ&hellip;&hellip;」<br />
彼女を喪って、幾星霜―――零れた、万感の想いを秘めたその名に、退魔士は切なげに眉を顰めた。<br />
<br />
深き眠りについた土蜘蛛の側に片膝をつき、退魔士は静かに告げる。<br />
「君に、名前をあげよう。<br />
　君もまた、強い願いを受けて、その名を呼ばれるように。」<br />
<br />
この大地、鞆総（ともふさ）の名と。<br />
我が唯一の剣を創りたる者の銘を、君に。<br />
<br />
<br />
男の穏やかな声音が、遠くなる意識の中に響き<br />
目覚める約束の刻を、示した。</font>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>椎葉</name>
        </author>
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    <published>2010-01-06T22:16:08+09:00</published> 
    <updated>2010-01-06T22:16:08+09:00</updated> 
    <category term="銀雨＝鞆総スルガ" label="銀雨＝鞆総スルガ" />
    <title>雪華奏～浅き夢見し、暁狭間～ ５</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<br />
<font size="2">　　　　　　　　&sect;　いくとせの、ゆきげしき　&sect;<br />
<br />
<br />
さらさらと、白い欠片が天から地へと降り注ぐ。<br />
それらは街の至る所に降り積もり、世界を白に染め上げていく。<br />
街の様相は随分と変わり、鉄の塊が往来したり、見慣れぬ衣装をまとった人間が右往左往する。<br />
建物は硬い石で作られ、人工の光が辺りを照らす。<br />
（変わらぬのは、この灰色の空だけか&hellip;&hellip;）<br />
吐いた息が、風に流され白い跡を残す。<br />
襟元から、ふと白い子犬が顔を覗かせ、外気の寒さにやはり堪えられぬというように、再び青年の胸元に潜り込んでしまった。<br />
フェイクファーをあしらった上着を着ていても、その身なりはこの季節には如何にも寒そうで。<br />
ぶる、と青年は身を震わせ、近くの店の路地に身を置いた。<br />
ここならば、少しばかり寒風を凌げる。<br />
どうせ、目覚めたとて当てのない命。<br />
招かれた銀誓館学園という場所に宛がわれた住処も、やはり落ち着くことはできず。<br />
降り続く雪を、ぼんやりと眺める黄金色は、いつしかとろとろとまどろみの中に沈んでいった。<br />
<br />
春の訪れを待たずに、枯れてしまった&hellip;その幼い命。<br />
昨日の事の様にはっきりと、思い出せる。太陽のような笑顔。鈴のような声音。<br />
喪ったあの日と同じ&hellip;この雪の中ならば、幻でも良い、&hellip;&hellip;お前に&hellip;<br />
<br />
<br />
「――大丈夫ですか？こんな所で眠っては、お身体に障りますよ」<br />
柔らかな女性の声で、眠りから引き戻される。<br />
振り仰ぐと、艶やかな黒髪を高く結い上げた、淑やかな娘の困惑を秘めた微笑が目に入った。<br />
ゆっくりと瞬きを繰り返す、その黄金色の瞳が覚醒したのを確かめながら、娘は白魚のような繊手で青年の肩や頭に降り積もった雪を、そっと払ってやる。<br />
「&hellip;&hellip;すまぬ&hellip;いや、すみま、せん」<br />
わざわざ丁寧語に言い直す、その不器用な口調に、娘はくすりと笑みを零した。<br />
娘に感じる、微妙な親和感に、青年は少し考え込み、やがて気付いた。<br />
彼女も、「同族」であること。<br />
自分と比べ、この時代、この街に溶け込んだ風情の娘は、青年に軽く会釈をして立ち去ってゆく。<br />
<br />
ちよも、大きくなったら&hellip;あのような可憐な娘に育っていただろうか。<br />
遠ざかっていく、たおやかなシルエットを見送りながら、土蜘蛛の青年は思う。<br />
胸元の仔犬が、いつの間にか顔を出して、自分を見上げていた。<br />
拾った時と同じ、真っ直ぐな翡翠の眼差しで。<br />
微かに、吐息のような微笑を漏らし、その白い毛並みをくしゃくしゃと撫で回してやれば、<br />
ちょっと迷惑そうに鼻を鳴らす。<br />
<br />
路地裏の空を振り仰げば、相変わらず雪は止む気配も無く。<br />
ついと翳した無骨な手で、雪のひとひらを掴む。<br />
握った手を開けば、それは瞬く間にただの水滴と化して。<br />
<br />
新しいこの世界で、幸せになれと、言われた。<br />
けれど、まるでこの雪を掴むような話だ。握りしめたと思えば、解け消える。<br />
&hellip;&hellip;そも、幸せ　とは何なのだろう。自分にとって、何が幸せだと言うのか。<br />
（わからない）<br />
（わからないけれど、でも）<br />
（それを探す為に、生きるのも　きっと）<br />
悪くは無い。</font>]]> 
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    <author>
            <name>椎葉</name>
        </author>
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    <published>2010-01-06T22:15:47+09:00</published> 
    <updated>2010-01-06T22:15:47+09:00</updated> 
    <category term="銀雨＝鞆総スルガ" label="銀雨＝鞆総スルガ" />
    <title>雪華奏～浅き夢見し、暁狭間～　６</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<font size="2"><br />
　　　　&sect;　うつつのかいな　&sect;<br />
<br />
<br />
「スルガさん」<br />
<br />
<br />
静かに耳朶に響く声音に、その者の瞼が震え。<br />
やがて覚醒する黄金が、黒髪の美しい娘を映し出した。<br />
「また、うたた寝していたのですね。」<br />
微苦笑を含んだ声が、彼の目覚めを確認して、「風邪をひいてしまいますよ」と<br />
柔らかに嗜める。<br />
彼が、自室のサンルームで寝こけているのは、既に見慣れた光景だ。<br />
彼――鞆総スルガと名づけられた土蜘蛛の若者―は、落ち着かぬ学園の寮を出た今、人形店を営む彼女・糸乗絢歌の下で居候の身分。<br />
封印されていた期間が長かった故か、一年経つ今でも、時折こうして意識を沈めることがある。<br />
それでも、この季節、毛布の一枚もかぶらずに、フローリングの床に倒れこんでいる様は、知らぬ者が見れば何事かと思ってしまうだろう。<br />
「少し、外に出てきます。<br />
　お留守番、お願いできますか？」<br />
肩にショールを羽織り、外出の支度を終えている絢歌を振り仰ぐと、スルガはこくりと頷く。<br />
まだ僅かに眠りの残滓を残した目元をこすり、前髪を掻き上げる仕草などは、人一倍長身で体格の良い年頃の男性にしてはまるで幼子のようで。<br />
精神的な未熟さ故だろうが、戦いに臨む時の凶暴な気配を微塵も感じさせぬ常の彼は、まるで大きな犬だ。<br />
お腹がすいたら、戸棚の中にクッキーがありますよ、と伝え置く絢歌は、同い年にして保護者の様相。<br />
「表の鍵は、一応かけておきますから」<br />
そう言って、扉へ向かう絢歌の服の裾が、つい、と曳かれて。<br />
振り返れば、立ち上がりかけたスルガの黄金の眼差しと視線が絡んだ。<br />
その眼差しは、自分を見ているようであり、&hellip;自分を通して&ldquo;違う何か&rdquo;を見ているようにも、思えて。<br />
――所以は、何となく、察することができた。<br />
静かに、彼の側に膝を落とし、目線の高さを近しくする。<br />
「&hellip;&hellip;すぐ、帰ります」<br />
だから、大丈夫。と<br />
告げられて、漸く、指は離れた。<br />
<br />
少しだけ、聞いた事がある。彼の昔話。<br />
<br />
護りたかったもの<br />
けれど、護りきれなかったもの。<br />
<br />
彼の中の唯一、「ひと」らしい記憶は、悲しみで綴られていた。<br />
<br />
<br />
「心配なら、一緒に行きますか？」<br />
ふわりと微笑まれて、目を瞬いたスルガは、自分の子供じみた我侭を恥じたか、少し俯いて頭を振る。<br />
そして、小さく詫びる言葉。<br />
絢歌はもう一度、薄絹の華が綻ぶように、静かに微笑って、立ち上がる。<br />
「お土産、買ってきますから」<br />
その一言で、期待の眼差しを向けられるものだから、もう。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
サンルームのガラスに、今年最後の雪が降る。<br />
瞬く間に時は過ぎ、あの時の答えは、未だ定かではない。<br />
形のないものを探すのは、本当に難しいと、雪空を見上げて、思う。<br />
<br />
たったひとつ、感じることは。<br />
今のこの日々は、多分、その答えに近いのではないかと<br />
そんな、気がした。<br />
<br />
移ろい往く時の中で、土蜘蛛は少しずつ、足りぬ欠片をうめていく。<br />
<br />
<br />
（げんきに、なったのね　　もう、だいじょうぶ、ね）<br />
雪降る梢に座る、小さな少女が太陽のように微笑んで<br />
降り注ぐ淡雪に紛れ、消えた<br />
<br />
了</font>]]> 
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            <name>椎葉</name>
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