しゃり、しゃり
泥だけは落とし、齧る馬鈴薯。
焼いたり煮たりする火種も、この降りしきる雨の中では確保し難いものだ。
他に味をつけるものなど、尚更、ありはしない。
生きる為に
その唯一の命題が、どれだけ重ねた罪を贖うものか
考えるのも無意味
幾たびも枯れかけた命を、それでも醜く繋ぐのも、希望、などという綺麗な言葉ではなく
執念にも似た、「巫女」であることの使命
盲信にも似た、崇めるべきものへの思慕
いつか 会える
そして 繁栄の礎とならん
歴史から 人々の記憶から 結界という安寧に守られた世界から
忘れられた存在――土蜘蛛
彼らに仕える者として 私は、忘れていない
ようやく晴れた夜空から降り注ぐ月光に、透ける蜘蛛の糸は
喩えようも無く美しいと思った
朽ちかけた板が、申し訳程度に天蓋となる住処に膝をかかえ、空腹を限界まで耐えてようやく、
私は麓の村の畑に降りる。
僅かな糧を得る為に。
決して裕福でない私の家が、ある日燃え尽きて。
生きているのは、私だけになってしまった。
他に頼るべき人もおらず、寒空の下、身一つで放り出されてしまった。
それからは、働くことも教えられない私は、搾取し生きることだけが思いつく手段だった。
畑の端、そっと人参を掘り出す。ひとつ、ふたつ。
大事に、懐にしまって、そこで
夕暮れ刻だった辺りが、急に翳って夜になったかと思ったけれど。
見上げると、居並ぶ影が太陽を隠していた所為だった。
隙間から見えた空は、やっぱり夕焼けだったから。
口腔に滲むものも、鼻腔を満たす臭いも、多分、元は同じだろう。
身体が軋んで、これはとうに四肢もばらばらになってしまっているのではないかと、朧な思考の中で他人事のように考えた。
荒々しく吐きかけられるのは、もう言葉として認識できない、騒音のようだった。
煩い、な
こんな雑音、もう、聞きたくない
「―――生きているか」
気配だけが、誰かが自分の傍に膝をついて覗き込んでいることを教えてくれた。
知らない男のひとの、声。
でも、どうしてだろう…どこかで聞いたことがあるような、懐かしい、その声。
「…………」
口を開こうとしたけれど、ひゅうひゅうと掠れて、私の喉からは何も音は出なかった。
「遅くなって、すまなかった」
何故、謝るの?
ふうわり、抱きかかえてくれたあなたの腕は、こんなにも強くてあたたかいのに。
「共にゆこう。姫様が、お待ちかねだ」
―――あなたの、匂いは そう そうなのね やっと
もう、ひとりで寒空に心を凍てつかせることもないのだと
どうか、信じさせて。