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(株)トミーウォーカーのウェブゲーム『シルバーレイン』をはじめとする、プライベートSS置き場。
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ふわ、ふわ、と。
あたたかい水に包まれ、心地よく呼吸をするような 不可思議なまどろみ。

泡沫のように、浮かんでは弾けて消えるのは
その中に映る情景は
嗚呼、そうだ

きっと、俺自身の記憶。




                 § 狭間 §

日輪の光届かぬ、深き溟き森の中
そこで生まれたものか、外からやってきたのか、もう覚えてはいない。
骨のように奇怪な枝を伸ばす、歪な樹林。
黒き土と、険しい岩肌に支配された大地。
ここが、その蜘蛛童の揺り籠。世界の、全て。


荒れ狂う凶暴な殺気が迫ってきていることを、蜘蛛童は直感で知る。
身を屈めたその上を、異音を響かせて通り過ぎる暴風。
否、其は風に非ず。
鋼鉄の如き体毛に、無数の生命を喰らってきたのであろう、角のように突き出した鋭い牙を備えた、異形。
絶えることのない苦痛に、その身を苛まれ続けるモノ――妖獣。
その濁った視線が、蜘蛛童を捕らえる。

滅、滅、滅

伝わりくるは、狂ったような凶気。
常軌を逸した殺気を受ける蜘蛛童の黄金の眼は、だがしかし同じ異形でありながら玲瓏に理性を宿す。
先を喫したのは、蜘蛛童。
撓めた態勢から、木々の幹を渡るように跳躍を繰り返し、妖獣の死角に躍り出る。
強靭な顎が妖獣の頚に喰らいつき、骨を砕く鈍い音と、ケダモノの耳障りな苦痛の絶叫が不協和な音色を奏でた。
致命的な一撃、だが、妖獣もまだ倒れぬ。
暴風の如く身を震わせ、蜘蛛童を振り払う。宙に浮いたその身体に突進し、苛烈な頭突きを叩き込んだ。
それは正に破壊槌の威力。
回避ままならず、蜘蛛童は吹き飛ばされ、樹の幹を幾本も薙ぎ倒しながらようやくその勢いは止まった。
ずる、と地に力なく伏せ八肢を折る蜘蛛童もまた、未だ戦意衰えぬ。
これが最後の一撃とばかりに、互いに肺腑を搾り出すが如き咆哮、昂ぶる獣気。
ざわざわと、恐れ戦くように木の葉がざわめいた。

瞬。

束の間、風がその役目を放棄し、音の一切が絶たれたかに思える静寂の後。
地に立つ影は、八足のもの。
牙の化身は、どう、と倒れ、その身を塵と化してこの世から痕跡を無くした。

繰り返される、彼岸との境を渡る日々。
戦い、と称するには、信念も目的もなく。
襲うものも、襲われるものも、ただそこにいたから。
あまりに日常と成り果てたそれは、ひととき、或いは明日までの生を繋ぐ為の事務的な手順のようにさえ、思えるほどの。
選択や、思考の余地など、ありはしないのだ。この殺戮の大地に。


「おおきい、くもさん」
無垢な声が、唐突に空ろの森に響き。
蜘蛛童は些かの驚きを以って、そちらに頭を巡らせた。
妖獣蠢く、生気なき森で、言葉を話す生き物など見たことが無い。
それも、このような小さく弱いものが。
にんげんの、こども。
拙き足どりで、粗末な着物をまとったあまそぎの娘が、こちらに歩み来る。
そろり、そろりと。異形の生物への、恐怖感や警戒心からではない。犬猫へ、近づく人を恐れて逃げぬように気遣うようなそれ。
蜘蛛童は微動だにせず、そんな子供をじっと黄金の複眼で見つめる。
やがて、一匹と一人の距離は、一尺と離れぬ程になった。
「わたい、“ちよ”。
 はじめまして、おおきいくもさん。
 あのね、わたい、とうちゃとはぐれちゃったの。くもさんも、ひとりなの?」
少し舌足らずな、あどけない声音。
語る言葉を持たぬ蜘蛛童であったが、ちよと名乗った子供の言わんとしている意味は、何となく理解した。
首を傾げ、自分を見上げてくる仕草に和まされたか、ちよは安心したように、あどけない笑みを浮かべ、頬を桜桃のように染めた。
「とうちゃみつけるまで、いっしょにいてくれる?」
ふたりなら、淋しくはないから。
そう言って胴に身を寄せてくる幼子。

それが、蜘蛛童が最初の感情を覚えた、奇しくも哀しき邂逅であった。
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