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(株)トミーウォーカーのウェブゲーム『シルバーレイン』をはじめとする、プライベートSS置き場。
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「なまえ?」
「そうだ」
今更だが、互いに名乗りもしていなかったから、と鋏角衆の男は問うた。
聞かれたけど、私に答えられるものはない。
名前など、あっても意味のないものになって久しく、もう……何であったかすら、忘れてしまっていたから。
暫し、男との間に沈黙が落ちる。
「―――信之丞」
「?」
「俺の名前は、姫酉ジンという。名字をお前にやろう。
 お前は、“姫酉信之丞”と名乗れ。――どうだ?」
名前は、人にとって大事なもの、唯一つの存在であるための、大切な言霊。
だから、と彼――ジンは言った。
「……うん」

同じ名前をくれることが、何だかくすぐったい。
拒む理由はどこにもない。
貴方がそう呼んでくれるなら、きっと素敵なこと。

「おとこの人の名前みたいだけど、いいよ」
「え」
痩せて発育の悪い私だったから、どうやら本気で性別を見誤っていたらしい彼が、あたふたと狼狽し謝る様が可笑しくて、
生まれて初めて、声を上げて笑うことができた。

「ありがとう、ジン」

 

不器用な、その優しさが心地よい。
いつだって、小さな私と歩く速さを合わせてくれるジン。

無骨な手が私に触れる時、壊れ物を扱うように一度躊躇って、それから伝わるあたたかさも
うたたねした身体にかけてくれる、おっきな上着に染みた大地の匂いも
鍛錬をする、厳しいその横顔も
蜘蛛童の背に乗せて見せてくれる景色も

ぜんぶ、私の“特別”。

ジンがいるから、私のせかいはこんなにも、やさしい。


全てのものには、おわりがくる。
望むと望まざるとに関わらず
幸せを永遠にと願うからこそ、その壊れる「刻」の訪れはあまりにも、儚い。

怒号と 悲鳴と 轟音と 閃光

いつか見た本の「地獄」というのは、こんな景色なのかもしれないと思った。
穏やかだった葛木山の風は、今はまるで飢えた獣の咆哮のように荒く、触れただけで切り裂かれるよう
息を吸っても吸っても、尚苦しい

あちこちに同胞の骸が横たわり、もう通い慣れた筈の屋敷への道程さえ、わからなくなってしまう程の。
ぐらぐらと、眩暈がする

どうして どうして こんなことに
誰が壊したの?
誰がこんなことをしたの?
みんな みんな 燃えてしまう
消えてしまう
私はまた、ひとりぼっちになってしまうの?

いや そんなのいやだ

ジン
この煉獄のどこかで、きっと貴方はいる筈
会いたい
ジン

草履の鼻緒もいつしか切れて、裸足で駆け出す。
尖った石が足を傷つけても、突き出た枝が皮膚を抉っても
今駆け出す事を止めてしまえば、二度と立ち上がれなくなりそうだったから


――信之丞

声ですら、なかったかもしれない。
けれど、確かに私を「呼んだ」声に、竦んだように足が止まる。
巡らせた視線の先、生命の灯火のとうに絶えた蜘蛛童は、「彼」の。
その傍らで、地に伏せる影を、私が見誤ろう筈がない。
「――ジン!!!」
まろぶように駆け寄り、ジンの側に膝を落とす…
そこは流れる血も黒く染まり、大地に大きな染みを広げている。
死闘を物語るように、ジンの身体はぼろぼろだったが、止めとなったのは腹部を深く切り裂いた創なのだろう。
咄嗟に、癒しの術を使おうとした私の手は、
震える、しかし驚くほどしっかりした力を込めた大きな無骨な手に触れられ、止められた。
最早、助からぬ と、憔悴しながらも最期を悟った眼差しが伝えてくる。
それが意味するものを受け入れたくなくて、私は馬鹿みたいに首を振り続けた。
「信之丞」
ひゅうひゅうと、苦しげな息の下でも、私を呼ぶ声は、不思議と周囲の轟音にかき消されることはない。
「聞いて、くれるか」
遺言だ、と。
「俺は、何も後悔していない。
 進んできた道を、信じて護り抜いたものを、間違っていたと思わない。
 それが、俺の誇りで、生きてきた証だ」
遠い記憶に思いを馳せるよう、ジンは瞼を一度、閉じた。
「ここから先は…信之丞…どうか――俺たちの屍を苗床に、新しい命を守り、育てて欲しい」

恨み言でもなく
命乞いでもなく
静かな祈りだった
明日も生きる命を祝福し、残される者の幸せと繁栄を願う心だけ、強く、強く。

「うん。」
約束するよ、ジン
ジンの守りたかったものは、私が守り続ける
いつかくる終わりの日まで

だから、ゆっくり休んでね

絡めた小指の感覚は、最期まで優しく

ジンは少しだけ微笑んで
永久に醒めない眠りの向こうへ、旅立った。

 

銀誓館学園、という組織に属する能力者達に「保護」されたのは、それから程なくしてだった。
ジンや仲間をたくさん傷つけ、殺したひとたち
けれど、復讐という溟い単語を、不思議と思い浮かべることさえなかったのは、
ジンの言葉があったからだと思う。

何も後悔はしていない
進んできた道を 信じて護り抜いたものを 間違っていたとは思わない
それが俺の誇りで、生きてきた証

お前にとっても、歩んだ道がいつかそうであってくれと
全てを包み込む そんなあたたかな想いに、今も私は護られている。

死によってすら、断ち切れないものが確かにある
想いは受け継がれ、未来へと続いていくのだから
この誓いを胸に歩むなら、私はどこまでもジンと一緒に生きていけるのだから。

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