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(株)トミーウォーカーのウェブゲーム『シルバーレイン』をはじめとする、プライベートSS置き場。
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        § いくとせの、ゆきげしき §


さらさらと、白い欠片が天から地へと降り注ぐ。
それらは街の至る所に降り積もり、世界を白に染め上げていく。
街の様相は随分と変わり、鉄の塊が往来したり、見慣れぬ衣装をまとった人間が右往左往する。
建物は硬い石で作られ、人工の光が辺りを照らす。
(変わらぬのは、この灰色の空だけか……)
吐いた息が、風に流され白い跡を残す。
襟元から、ふと白い子犬が顔を覗かせ、外気の寒さにやはり堪えられぬというように、再び青年の胸元に潜り込んでしまった。
フェイクファーをあしらった上着を着ていても、その身なりはこの季節には如何にも寒そうで。
ぶる、と青年は身を震わせ、近くの店の路地に身を置いた。
ここならば、少しばかり寒風を凌げる。
どうせ、目覚めたとて当てのない命。
招かれた銀誓館学園という場所に宛がわれた住処も、やはり落ち着くことはできず。
降り続く雪を、ぼんやりと眺める黄金色は、いつしかとろとろとまどろみの中に沈んでいった。

春の訪れを待たずに、枯れてしまった…その幼い命。
昨日の事の様にはっきりと、思い出せる。太陽のような笑顔。鈴のような声音。
喪ったあの日と同じ…この雪の中ならば、幻でも良い、……お前に…


「――大丈夫ですか?こんな所で眠っては、お身体に障りますよ」
柔らかな女性の声で、眠りから引き戻される。
振り仰ぐと、艶やかな黒髪を高く結い上げた、淑やかな娘の困惑を秘めた微笑が目に入った。
ゆっくりと瞬きを繰り返す、その黄金色の瞳が覚醒したのを確かめながら、娘は白魚のような繊手で青年の肩や頭に降り積もった雪を、そっと払ってやる。
「……すまぬ…いや、すみま、せん」
わざわざ丁寧語に言い直す、その不器用な口調に、娘はくすりと笑みを零した。
娘に感じる、微妙な親和感に、青年は少し考え込み、やがて気付いた。
彼女も、「同族」であること。
自分と比べ、この時代、この街に溶け込んだ風情の娘は、青年に軽く会釈をして立ち去ってゆく。

ちよも、大きくなったら…あのような可憐な娘に育っていただろうか。
遠ざかっていく、たおやかなシルエットを見送りながら、土蜘蛛の青年は思う。
胸元の仔犬が、いつの間にか顔を出して、自分を見上げていた。
拾った時と同じ、真っ直ぐな翡翠の眼差しで。
微かに、吐息のような微笑を漏らし、その白い毛並みをくしゃくしゃと撫で回してやれば、
ちょっと迷惑そうに鼻を鳴らす。

路地裏の空を振り仰げば、相変わらず雪は止む気配も無く。
ついと翳した無骨な手で、雪のひとひらを掴む。
握った手を開けば、それは瞬く間にただの水滴と化して。

新しいこの世界で、幸せになれと、言われた。
けれど、まるでこの雪を掴むような話だ。握りしめたと思えば、解け消える。
……そも、幸せ とは何なのだろう。自分にとって、何が幸せだと言うのか。
(わからない)
(わからないけれど、でも)
(それを探す為に、生きるのも きっと)
悪くは無い。
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    § うつつのかいな §


「スルガさん」


静かに耳朶に響く声音に、その者の瞼が震え。
やがて覚醒する黄金が、黒髪の美しい娘を映し出した。
「また、うたた寝していたのですね。」
微苦笑を含んだ声が、彼の目覚めを確認して、「風邪をひいてしまいますよ」と
柔らかに嗜める。
彼が、自室のサンルームで寝こけているのは、既に見慣れた光景だ。
彼――鞆総スルガと名づけられた土蜘蛛の若者―は、落ち着かぬ学園の寮を出た今、人形店を営む彼女・糸乗絢歌の下で居候の身分。
封印されていた期間が長かった故か、一年経つ今でも、時折こうして意識を沈めることがある。
それでも、この季節、毛布の一枚もかぶらずに、フローリングの床に倒れこんでいる様は、知らぬ者が見れば何事かと思ってしまうだろう。
「少し、外に出てきます。
 お留守番、お願いできますか?」
肩にショールを羽織り、外出の支度を終えている絢歌を振り仰ぐと、スルガはこくりと頷く。
まだ僅かに眠りの残滓を残した目元をこすり、前髪を掻き上げる仕草などは、人一倍長身で体格の良い年頃の男性にしてはまるで幼子のようで。
精神的な未熟さ故だろうが、戦いに臨む時の凶暴な気配を微塵も感じさせぬ常の彼は、まるで大きな犬だ。
お腹がすいたら、戸棚の中にクッキーがありますよ、と伝え置く絢歌は、同い年にして保護者の様相。
「表の鍵は、一応かけておきますから」
そう言って、扉へ向かう絢歌の服の裾が、つい、と曳かれて。
振り返れば、立ち上がりかけたスルガの黄金の眼差しと視線が絡んだ。
その眼差しは、自分を見ているようであり、…自分を通して“違う何か”を見ているようにも、思えて。
――所以は、何となく、察することができた。
静かに、彼の側に膝を落とし、目線の高さを近しくする。
「……すぐ、帰ります」
だから、大丈夫。と
告げられて、漸く、指は離れた。

少しだけ、聞いた事がある。彼の昔話。

護りたかったもの
けれど、護りきれなかったもの。

彼の中の唯一、「ひと」らしい記憶は、悲しみで綴られていた。


「心配なら、一緒に行きますか?」
ふわりと微笑まれて、目を瞬いたスルガは、自分の子供じみた我侭を恥じたか、少し俯いて頭を振る。
そして、小さく詫びる言葉。
絢歌はもう一度、薄絹の華が綻ぶように、静かに微笑って、立ち上がる。
「お土産、買ってきますから」
その一言で、期待の眼差しを向けられるものだから、もう。




サンルームのガラスに、今年最後の雪が降る。
瞬く間に時は過ぎ、あの時の答えは、未だ定かではない。
形のないものを探すのは、本当に難しいと、雪空を見上げて、思う。

たったひとつ、感じることは。
今のこの日々は、多分、その答えに近いのではないかと
そんな、気がした。

移ろい往く時の中で、土蜘蛛は少しずつ、足りぬ欠片をうめていく。


(げんきに、なったのね  もう、だいじょうぶ、ね)
雪降る梢に座る、小さな少女が太陽のように微笑んで
降り注ぐ淡雪に紛れ、消えた

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